現実逃避気味なプロローグ

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 少し、俺の話を聞いてくれないか。  ああ。そうそう、君だよ君。現実逃避時対話用仮想人格であるところの君に言ってるんだ。  さて。  どこの学校にだって一つや二つはある、とも言い切れないが。  噂だの伝説だの、そう言った類いの話はあっても不思議ではないと思う。  購買部販売の一日三個限定プリン。味はミルク、カスタード、チョコレートの三種類。  このすべてを手に意中の相手へ告白をすると幸せになれる──。  そんな胡散臭さ満点の──確実にプリンの販促目的で捏造……いや作り出された──伝説が俺、夜空昴(よぞらすばる)の通う高校にはある。  普段ならそんなものに見向きもしないどころか、鼻で笑ってしまう程度には醒めたガキである俺なのだが、しかし、だ。  情けないことに現在の俺はと言えば、その嘘臭い伝説であろうがお構い無しにすがりつきたくなるほど不安定な精神状態にある。  具体的に言うと、好きな女の子に告白をすると決めたはいいが情けなくも恥ずかしいことに土壇場であと一歩踏み出す勇気がなかなか振り絞れなかったヘタレな俺はどうにかして自分の背中を押し出すきっかけを探していた、のだ。  で、悩みに悩んで行き着いたのが、例の伝説だった。  伝説と言っても、この学校は創立十年という俺より七つも下の若々しさで、加えて言うとプリン販売歴はたったの数年であるため、信憑性など皆無に等しい。  事実、この伝説にあやかってカップルが誕生したなんて話は聞いたことがないし、まあ世の中そんなにうまくは出来てないわけだ。  うまく行ってるのは学食の実績と購買部の売れ行きくらいのもので。  だがしかし、噂だけが勝手に一人歩きしてプリンの味以外はまったく評価されていない安っぽい伝説も、俺のような迷える子羊にとっては非常に利用価値のある存在だったりする。  だって、あれだ。失敗しても言い訳ができるじゃないか。少なくともこれを実行に移すことで伝説の真偽を確かめるという大義名分が用意される。  そして購買部の売り上げにも貢献できる。  さらに俺の心は葛藤から解放され、想いを打ち明けるための後押しが得られる。  ついでに美味いプリンも味わえて、一石二鳥や三鳥どころの騒ぎではない。  どうだ。誰も損をしない完璧な告白方法だろう。
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