俺たちの戦いはこれからだ

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 昼休み。  この時間、学校は無慈悲な戦場と化す。  廊下を荒々しく駆ける無数の足音。血走った目を周囲へ向け、状況を絶えず把握しつつ、目的地へと疾走する者たち。  そこには教師も生徒もなく、飢えた獣そのものの姿で、生物的欲求を満たそうと皆が皆躍起になっていた。  ある者は隣を走る者を蹴落とし、ある者は策謀を巡らせ他者を欺き──阿鼻叫喚の地獄絵図とはこのことを言うのだろう。  授業の終わりを告げ、昼休み開始と同時に、開戦を報せる電子音。  校舎内に流れるチャイムの音が、まるで催眠術であるかのように人々を一瞬にして獲物を狙う狩人へと変貌させた。  彼らが狙うのは、売り切れ必至の限定メニューだったり、格安弁当だったり様々だ。  複数で手を組み、一人が目当ての品を買い求め、一人が席の確保を担当するなんて役割分担をしている理性的な連中はほぼ皆無。お前らそれでも知能ある人間か。  それにしても……これは……。  普段は呑気に駄弁りながら、教室で気の知れた仲間たちと弁当を広げている俺が、まさかこの死闘に参戦する羽目になるとは。  所詮は食べ物の奪い合いだと甘く見ていたのかも知れない。人の食にかける情熱がここまでのものとは。  軽くホラーな光景を目の前にして、思わずたたらを踏んでしまいそうになる。  けれど、俺は頭を振って芽生えかけた恐怖心を消し飛ばす。  目的のプリンを手に入れて、こんな危険地帯からはさっさと退避するとしよう。  幸いデザートよりも単純に食欲を満たしてくれる品を優先とする者が多いらしく、今のところプリンは三種類とも無事だ。 「──昴。後方から目標を狙う女子軍団が殺到してるぞ。距離にして十メートルってところか」  俺の後ろで周囲の状況観察に精を出していた男──星宮恭平(ほしみやきょうへい)が別段慌てた様子もなく声をかけてくる。  他の生徒たちからの妨害行為に対処しながら目標へと慎重に近づきつつ、俺は振り返らずに、 「そっちは任せる。後ろから邪魔が入らないようできる限りのことは頼んだ」 「任せろ。報酬分の仕事はきっちりしてやるよ」  見なくてもわかる。  男らしいと言うよりも可愛らしい部類の整ったその顔に、黒い笑みを浮かべている恭平の姿が。  やはり前払いで渡しておいた『報酬』──いわゆる“お楽しみDVD”とか“お楽しみ本”とか言われる男性御用達の品──が効いているらしい。
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