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仕方ない。下手な小細工も思いつかない状況だ。
ここは素直に頼んでみるとするか。
「柳沢くん。悪いんだけど、そのプリン譲ってくれないか?」
「はあ? 何でだよ。……それと俺は今藤だ」
柳沢じゃないだと? じゃあ誰だよ柳沢って。
柳沢(?)くんはしかめ面で俺の手の中にある物を見ている。
「ていうか、お前もう二つも持ってるじゃねえか。なら、一つぐらい俺が貰ったっていいだろ」
良くない。まったく良くない。三つないと何の意味もないんだっての。わかれよ、俺が限定プリン三種類コンプリートしようとしてる意味を。
「それがそうもいかない理由があるんだよ。いいからその手に持ったチョコプリンを渡しやがりなさい山崎くん」
「お断りだ。何でお前が微妙に偉そうな態度なんだよ。そして俺は今藤だ、こ・ん・ど・う。さっきから何だ柳沢だの山崎だの、一文字もあってねーじゃねえか。喧嘩売ってんのか」
「君みたいな筋肉相手に誰が喧嘩なんか売るか。俺はふざけてるだけだ」
「ふざけるなよっ。ある意味喧嘩売るよりタチ悪いわ」
「こっちは遊びでふざけてるんじゃない、真面目にふざけてるんだっ! 何が悪い」
「悪いだろっ!?」
怒鳴り、肩で息をする山沢くんは明らかに警戒の色を強くしていた。
「……ああもう、何なんだよ、いったい」
「…………」
ほんと、何なんだろうな。俺が訊きたい。
──ふと、目の前に立つ大男に関して重要なことを思い出す。
真偽のほどは定かでないが、一時期柳沢くんは男色家だという噂が流れたことがあった。好みは確か……自分のような男らしさ全開のムサイ男ではなく、俗に言う可愛い系だとか。
ふむ。これは交渉材料として使えるか?
「柳沢くん。取り引きだ」
「……もう柳沢でいいよ。で、取り引きが何だって?」
「ああ、そのプリンを譲ってくれたなら相応の見返りを用意してやる」
「見返り……?」
お。多少は興味があるらしい。
女子の集団と談笑している男子生徒を俺は顎で示し、
「──あそこにいる恭平を一日好きにさせてやる」
「な…………っ」
動揺を隠しもせず、提示された交換条件に対する驚愕と興奮をあらわにする柳沢くん。
「お、おい夜空。な、何を……言ってんだお前。男なんか好きにできても、う嬉しくなんかねーよ……」
声が上擦ってますよ、柳沢くん。
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