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俺は自分が出せる最大級の優しい声音で、落ち着きをなくした少年を真摯に諭してやる。
「安心してくれ。俺は君の味方だ。君がひた隠しにしてきた秘密を知った上でこの提案をしているんだ。意味は、わかるよな?」
「っ……け、けど、お前。星宮はお前の友達だろ。友達を売るつもりかよ? それに、あいつの気持ちだって……あいつ、ノーマルだろ」
柳沢くんは自分が男色家であることをあっさりと認めてしまった。おいおい、俺は『秘密』と言っただけでその内容は口にしてないんだが……。
よほど、俺の提案した交換条件がお気に召されたらしい。彼は冷静さを完全に喪失し、吊り下げられた餌にしか目が行かなくなっている。
あと、一押し、だな。
「自分の感情に素直になれ、柳沢くん。君の抱いているそれは別に汚らわしいものなんかじゃないんだ。それに、いつまでも自分の気持ちを欺き続けることなんてできやしない。いつか必ず限界が来るんだ。いいのか? 自分を抑圧したまま友人や家族と接する苦しい日々を送り続けて。それが君の本当に望んでいることなのか?」
「よ、夜空……」
嘘は言ってない。俺の正直な感想だ。
人間生きていく上である程度の我慢が必要なのは確かだが、限度というものがある。
時には自身を縛りつけている枷を解き放ってやることも必要だ。
もちろん、そうしたことで生じた問題の責任を取るのは、自分自身だがな。
「俺は別に友達を売るわけじゃない。仲介役を買って出ただけだ。その後は君の頑張り次第。俺は君の背中を押す手伝いをするに過ぎない」
「お……俺……俺、は……っ」
「…………」
ふ。
堕ちたな。
*
店員のおばちゃんが放つ毎度、という声を背に受けながら俺は危険区域から颯爽と離脱する。
何だか妙にあっさりと行き過ぎたとは思うが。こうして俺は無事、限定プリンを手にすることが出来た。
一人の友人を犠牲にして。
……恭平、柳沢くんと仲良くな。
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