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大人の事情など言い訳だ。と目で訴えてくるものだから、リクドウとしても沢山の言い訳を持つ身として胸が痛む。
「とにかく、名前は悠に決めさせてもいいだろう?なにか案があるかもしれない。」
苦し紛れに口にした誤魔化しの台詞すら興味を示してもらえずにカケイはリクドウを睨み付けた。
「いいから月読母様を連れてこんかい。話はそれからや!モトチカ父様がそばについとるんやろ?いますぐ連絡せぇや。」
有無を言わさぬお節介の血は、明らかに父親譲り。見た目は完璧な母親似なのに……いや、母親もお節介な女だった。つまり、しっかり両親に似たのだろう。それはそれで困った子に育ったものだ。
「カケイ、そないにエキサイトしとったら悠が起きるやないか。心配せんでもちゃあんと連れてきたで~」
いつのまにか開かれていた部屋の扉はカケイが怒鳴っている間に開いたとみえる。へらっと笑うモトチカと、どうしていいかわからず背中に隠れて様子をびくびくしながら伺う月読はかなり対照的だ。
いつもどおりと言えばいつもどおりだから問題はない。
「月読母様は、子供に名前つけるならどんな名前がえぇと思う?母様なら、きれーな字を使ってくれそうや」遠慮のない笑顔を月読にそそいでどんどん追い詰めていくものだから、リクドウはそっとカケイの肩に手を添えてぽんぽんと撫でた。
せっかくここまできた月読が逃げては困る。月読はモトチカの後妻でもあるから、カケイの母親への罪悪感もあってなかなか普通に接することができない。
解決した問題であっても、心の整理とは別物だ。母親似の顔で迫っては月読の心臓に悪いのでやめてやってほしい。
「カケイ、急に名前を考えろって言われて月読が困っとるやないか。可哀想やで一度離れたってくれ」
兄の言わんとしていることをモトチカも汲んでフォローをいれる。父親二人にそう言われては仕方がない。と少々拗ね気味に月読と距離をおくが、あまり長持ちしないだろうと予想されるため名前の候補を仮案としても出さざるを得まい。
「女の子だったら……かなた…」
ぽつり、落とすように口にした単語は、意外にもあっさりとでてきた。
「悠がお母さんだから、はるかかなた、で彼方。」
永遠に続く愛は、さらにはるかかなたまでいくようだ。
問い詰めておきながらカケイは鳩が豆鉄砲をくらったような顔をして月読をまじまじと見つめる。
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