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リクドウはなんとも言えない微妙な表情をしてカケイの顔を見る。
父親失格者になにを言うのか、と目が語り掛けていた。
「リクドウ父様、三人の子持ちやん。シドウも孫ができたし…」
立派やろ。と言い切る言葉は反論を求めていないらしい。リクドウの言葉を待たずに「名前なんにしよかなぁ」「悠、好物ならいけるやろか?」と独り言に近い台詞を立て続けに話されてしまうと反論の言葉は飛び出すタイミングを逃してしまう。
「名前は産まれてきた時に顔を見て決めればいい」
どうにか出てきた台詞はなんともありきたりなもので、リクドウはうまい言葉を即座に出せない我が身を呪う。
自覚がないだけで愛娘が産む孫に浮き足立っているようだ。
「あ……」
ふと、リクドウの脳裏を掠めた記憶に声が零れる。
酒を飲んだ月読が珍しくも酔い潰れて前後不覚になったときに話してくれたもので、それは悠の名付けに関するものだった。
「カケイ、お前は悠の名前の由来を知っているか?」
名付けの参考になるかとカケイに話題をふれば、返事をする前から聞く姿勢でリクドウの顔を覗き込んでいる。早く話せ、と急かすように見つめられてはツッコミをいれるタイミングを逃してしまう。一つ、誤魔化すような咳をしてから仕切りなおした。
「無限に存在しつづける愛。らしい。無限は永遠。永遠は、悠久。悠久で、はるか。」
いかにも月読らしいネーミングだと思える。わかりにくくて回りくどく、秘めた愛情の深い彼女らしい。
それでいて、母親には決して似ませんようにと祈って「月読」とは無関係な名付けをしたのに、リクドウから見ればその思惑は見事に外れたと言える。
「……なぁ、月読母様は見舞いにこんの?」
カケイの声に思考を引き戻され、つい苦笑いが零れた。彼女の性格を考えればわかるだろうに、どうやらそれは認めないらしい。
「こんの?」と聞いているが、言外に「つれてこい」と含ませていることにすぐ気が付いた。
「頑固な女だ。出向いたほうが早い。こと悠に関しては梃子でも意見を曲げようとしないからな。」
口を開けば「今更、母親面なんてできない」と言い、それを宥めてやれば「娘はいない」と強がる。
最近になって些か落ち着いてきたが、どんな顔をしていいのか何時だって悩んでいるのがリクドウとモトチカにはすぐわかった。
「それじゃあ孫に会えんやないか!」
カケイに難しい理屈は通用しないらしい。
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