卵、孵る

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 ――パリ、パリパリパリ。  結音の腕の中にいる卵に入るヒビ。  先ずそれに慌てたのは勿論結音で。 「ひ……ヒビがっ! ヒビが入ってるよ! 生まれる!? え、うま、うまままままま!」 「結音結音、言葉がおかしくなってるから落ち着いて! とりあえずあれだ、産婦人科に連絡して」 「いやいやいやいや! 陣痛とかないから! ひっひっふーないから!」  大慌てする結音を落ち着かせようと永遠は冷静を装うとする。  が、結局結音と大差はない慌てっぷりを発揮するだけになる。  陣痛だの、産婦人科だのが相手にしてくれるわけがない。  だって相手は卵だ。  ヒヨコの羽化に医者はいらない。  電話したところで 「あ、もしもし産婦人科ですか? 卵が孵ります!」 「そうですか、だからなんですか?」 『ってなると思うよ?』  双子の会話を聞いていたこの学校の名物のひとつ、ドッペルゲンガーたちが電話のシミュレーションをしながらそう言った。  しかも息をぴったりと合わせて。
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