一人ぼっち

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部屋の鍵を夕子に渡すと、二人は留美の部屋に入って行った。 留美は真人の部屋のチャイムを鳴らした。 「真人くん、お姉ちゃんだよ。」 そう言うと、真人はすぐに玄関の鍵を開け、チェーンを取った。 真人は4歳なのに、戸締りがしっかり出来るのだ。 留美は、4歳の真人に自分が負けてる気がした。 「今日は、真人くんの家で遊ぼう。」 そう言うと、真人は嬉しそうに、留美を部屋の中へ招いた。 「お姉ちゃん、僕ね、幼稚園に今度通うんだよ。」 「そっか。よかったね。」 現実を思い知るのは、きっともうすぐだろう。 母親が自分を捨てた事を知って、真人は立ち直れるのだろうか。 留美は自分の事のように、真人が心配だった。 「お姉ちゃん、どうしたの?」 考え込んでいる留美の顔を、真人が覗き込んで心配してくれた。 「何でもないよ。」 笑顔を作ったが、昨夜のことがずっと頭から離れなかった。 「真人くんのお父さんって、誰か好きな人いるの?」 留美はつい、真人にそんな事を聞いてしまった。 しまったと思ったが、すでに遅かった。 「お父さんはね、真人が一番好きだって言ってたよ。それからね、お母さんと、おばあちゃんと、あとはお姉ちゃんのことも好きだって言ってたよ。」 子供の好きは、きっと意味が違うのだろう、でも、そう言われて、少し心が救われた気がしたのだ。 「そっか。お姉ちゃんも、真人くんと、真人くんのお父さんの事、大好きだよ。」 留美がそう言うと、真人は留美に抱きついた。 こうして、勝馬の部屋に来れるのも、真人の面倒を見てあげているからできる事なのだ。 好きな人の家にいられるのが、まるで特別な女にでもなったような気がするのだ。 20時になると、勝馬が帰って来た。 「お邪魔してます。」 20時までだと約束したのに、夕子達はまだ終わっていない様子だった。 「留美ちゃんの部屋、明かりついてたからてっきり、留美ちゃんの部屋にいるのかと思ったよ。」 「今、友達に部屋を貸してるんです・・・もう約束の時間だから、私はこれで失礼します。」 留美がそう言うと、勝馬は昨日のつぐないでもするかのように言った。 「もしよかったら、いつも真人の面倒みてもらってるお礼に、3人で食事でも行かない?」 留美は勝馬のその言葉が嬉しかった。 「はい!」 途端に明るい笑顔になる。 「じゃ、着替えるから待ってて。」 勝馬はそう言うと、奥の部屋に行った。
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