一人ぼっち

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勝馬は着替え終わると、留美達に言った。 「行こうか。」 27歳の男の匂いは、留美の精神安定剤なのかも知れない。 勝馬が傍にいるだけで、安心できるのだ。 夕子にメールを打ってから、3人は出かけた。 『出かけてくるから、戸締りしたら郵便ポストの中にカギ入れといて。』 簡単な内容だけ打った。 絵文字でもつければよかっただろうか。 なぜか、絵文字をつけると嫌悪感が沸くのだ。 それは、母のメールには、愛情もないのに、ハートマークがちりばめられているからだ。 それを見ると、吐き気すらもよおす。 娘よりも、男を選んだ女に、どんなに愛しているからと言われても、留美は信じられなかった。 そして、また父も、娘よりも女を選んだのだ。 明るく生きて行きたいのに、留美は両親の事を思うと、すぐに辛くなってしまう。 それでも、今は勝馬が傍にいる。 それだけで、ホッとするのだ。 「留美ちゃん、何でも好きなの頼んでいいからね。」 「あ、はい。ありがとうございます。」 3人でファミレスに入り、ハンバーグを頼んだ。 周りから見たら、どんな風に映るだろうか。 夫婦に見えるのかな? そんな事を思いながら、自然と笑顔になっていく。 「おいしい!」 「うん、おいしいね。」 一人で食べる食事よりも、数万倍おいしい。 留美は本当に嬉しかった。 真人にハンバーグを切って食べさせる勝馬の姿に、胸がキュンとする。 否定はしない。 父と過ごした時間は、留美にとっては幸せだった。 父と母が離婚した後の5年間、父は女を作るまでは、留美の事を誰よりも大切にしてくれたのだ。 だが、女が出来ると、留美よりも女を優先するようになった。 そんな父のぬくもりを、勝馬に求めている事を、留美は否定はしない。 殺したいほど憎いわけじゃないけど、どうにもならないこの感情に、大人になったら両親とは縁を切ると決めていた。 あいつらにとっては、痛くも痒くもないんだろうな・・・ 留美はそう思った。
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