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妻に逃げられても、息子を一人手で育ててきた、立派な父親だと思っていたのに・・・
留美は、裏切られたような気持ちで、玄関を開けた。
「留美ちゃんごめんね、遅くなって。」
勝馬の顔を見ると、留美は悲しくなった。
あんた、今何してたんだよ・・・
そう思うが、声も出なかった。
「いいえ・・・」
留美は、真人を起こした。
「真人くん、お父さんが迎えに来たよ。」
真人は眠い目を擦りながら、目を開けた。
「パパ、おかえりなさい。」
無邪気に喜ぶ真人を前に、留美は一層悲しくなった。
真人のために、部活を辞めた。
それなのに、勝馬は女を抱くために、留美を利用した。
留美の中で、膨らむ悲しい思い。
「留美ちゃん、本当にありがとう・・・」
留美の様子に気付いたのか、勝馬が少しばつが悪そうに留美にそう言った。
真人は、勝馬に抱っこされると、すぐにまた寝息を立てていた。
「留美ちゃん・・・ごめんね。」
勝馬が留美にまた謝った。
「別に、関係ないし。おやすみなさい。」
そう言うと、玄関を閉めた。
玄関を閉めると、一人ぼっちの寂しさが、悲鳴を上げる。
それでも、もう泣けないのだ。
泣いたところで、何も変わらない日常を嘆く事など出来ないのだから。
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