一人ぼっち

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その日は朝方になり、ようやくうとうとした。 うとうとした頃に、真人の泣き声が聞こえる。 壁一枚の隣同士は、何でも話し声が聞こえてくる。 「何で、お姉ちゃんの家行っちゃだめなの?」 そう言いながら、真人が泣く。 そして、勝馬が言った。 「留美ちゃんに迷惑かけちゃうからだよ。」 留美は、悲しかった。 大人は、自分の都合でそうやって生きていけばいい。 でも、子供はある日突然、何の理由もなしに、大人の都合を押し付けられるのだ。 留美は、もう真人の面倒なんて見てやらないと、昨夜は思っていたが、真人の事を考えると胸が痛かった。 思い立ったように顔を洗って、隣の部屋のチャイムを鳴らした。 「はーい。」 勝馬の返事が返って来た。 「おはようございます!」 留美は元気に、玄関のドア越しにそう言った。 「留美ちゃん・・・」 勝馬は急いで玄関を開けた。 「おはよう・・・」 申し訳なさそうな勝馬をよそに、留美は笑顔を見せた。 「勝馬さん、私は昨日の事なんて、気にしてないからね。」 その言葉に、何も言えない勝馬。 「勝馬さん、私は真人くんが大好きだから、いつでも家に来てもらってもいいよ。」 「留美ちゃん・・・」 留美の声を聞きつけて、真人がやって来た。 「お姉ちゃん!」 留美に抱きつく真人は、まだまだ小さな男の子だ。 「お父さんがね、お姉ちゃんの家に来てもいいってさ。」 留美が真人にそう言うと、真人は大喜びした。 「留美ちゃん、ありがとう。」 勝馬がそう言うと、留美は笑顔で答えた。 「ううん、真人くんが居てくれて、私も楽しいから。」 勝馬も、留美の様子に一安心したのか、笑顔になった。
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