229人が本棚に入れています
本棚に追加
留美もいずれは、嫌でも大人になる。
大人になって子供を産んで、結婚して、幸せに暮らす。
そんな未来を描きながらも、今の留美の生活から想像する事は出来なかった。
学校へ向かう電車の中で、人と触れ合う瞬間が落ち着く。
「今朝痴漢にあっちゃってさ!」
いつも夕子はそう言うが、留美は痴漢にあった事は一度もない。
もしかすると、痴漢にあった事があるのかも知れないが、それに気付く事はない。
人間臭い車内で、生きているって実感が沸くのだ。
親に虐待されたわけでもない、死んでしまいたいほど、酷い人生でもない。
でも、寂しい。
そんな孤独が、人間臭さで消える気がするのだ。
最寄の駅で電車を降りると、改札口で夕子と浩太が待っていた。
「留美、おはよう!」
幸せな人間の笑顔は、なんて素敵なんだろう。
留美は、夕子のように笑って見たかった。
留美の笑顔は、いつもどこか作り物のような気がするのだ。
「夕子、浩太おはよう。」
合流すると、3人で学校へ向かう。
夕子と浩太の会話を、笑いながら聞いている留美。
でも、そんな会話の切れ端に、いつも両親の顔が浮かんでくる。
そして、悲しくなるのだ。
強くなりたい、こんな寂しさを打ち負かすぐらいの、強い女になりたい。
留美はそう願いながら、毎日を生きているのだ。
最初のコメントを投稿しよう!