一人ぼっち

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休憩時間になると、夕子が留美を尋ねて来た。 「留美、今日部屋貸して!」 夕子と浩太は、もう大人の関係だ。 「うん、わかった。でも、20時までね。」 「さんきゅー。」 夕子は、嬉しそうに自分のクラスへ帰って行く。 留美はファーストキスさえした事がない。 同級生に告白された事はあるが、付き合った事がなかった。 だから、キスも当然ない。 昨夜の勝馬の事を思い出すと、胸が苦しくなった。 どんな女が好きなんだろうか・・・ 勝馬からすると、留美は子供なのであろう。 昨夜の自分勝手な勝馬の行動には腹が立ったが、それでも勝馬を男として意識してしまうのだ。 そんな自分が少し嫌だった。 留美の母と父が離婚したのは、お互いに好きな人が出来たからだった。 この前、母のお腹が少し膨らんでいる気がした。 きっと、妊娠したんだろう。 だけど、母は留美には何も言ってくれなかった。 一人暮らしを始めてから、両親が留美に会いに来たのは、引越しの日の一日だけだった。 生活費は全部銀行に振り込まれる。 便利な世の中だが、それが逆に恨めしい。 「桐生さん、桐生さん?」 考え事をしていると、先生が留美を呼んでいた。 「あ、はい。」 「ボーっとしてどうしたの?桐生さん最近、ずっと考え事しているけど、大丈夫なの?」 「ええ・・・」 考えたくなくても、ずっと、考えてしまう。 あの温かかった家庭のぬくもりは、もうどこにもないから。 放課後になり、夕子と浩太がやって来た。 3人で一緒に帰るが、留美は上の空だった。 悩むのすら嫌なのに、どうして思い出すのだ。 父と母の顔が、何度も何度も思い浮かぶ。 私を捨てた奴らを、なぜ私は望んでしまうのだろう・・・
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