愛が重すぎるプロローグ

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『進路希望調査』なんて言って、教師連中は偉そうな顔でふんぞり返るけれど、齢17の高校生に漠然とした将来の目標なんて決められるはずがない。 高校生男子の平均をやや下回る大きさの手中に収まった 『進路希望調査』の紙を見下ろしながら、西日の差す教室で僕はそんなことを思っていた。 学もなければ金もない。 一芸に秀でている訳でもなければ、出会う女の子がみんな美少女である訳でもない。 友達の友達と二人っきりにされた部屋よりも息苦しいこの社会で、僕たちになんの希望があるというのか。 「……書き直し、か」 だけど、僕は違う。 生きていく為だけにはあまりにも大きすぎる希望があるしちゃんとした将来の目標だってある。 他のクラスメート達は、 『○○大学進学』 『専門学校』 『就職』 などと、相も変わらず使い古された、著作権侵害のような希望を書き連ねていくけれど。 「そんなの、幸せなのかな」 僕、葉山善(はやま ぜん)は、そんなくだらない事を生徒に問う紙を、文明の利器、飛行機型に折り曲げながら呟く。 ちなみに、この教室は普段誰も使用していない、いわば空き教室であり、ひとりっきりで彼女に思いを馳せるベストプレイスである。 普通、漫画やゲームならそういった場所は何故か屋上と相場が決まっているが、いかんせんこれは現実だ。 屋上なんて鍵がかかっていて入れないし、マンボウの赤ちゃんが無事孵化するぐらいの確率でもし開いていたとしても、風は冷たいし高いし、人は寄り付かない。 授業中も『泣くよウグイス竪穴式住居』なんて珍回答するくらい、彼女のことで頭がいっぱいになった心を鎮めるのも、こんな静かな場所がもってこいなのだ。 794年、一体何が起こったのだろう。 そして、彼女が下校するまさにその瞬間を確認するための最終ラインでもある。 「……完成」 そうこうしている内に、進路調査なんて糞みたいな紙でできた、これまた犬の糞みたいな紙飛行機が出来上がった。 そして僕は窓を開け放ち、叫びながら、紙飛行機を窓の外に向かって投げ飛ばしたのだった。 「なっちゃぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁん!! 好きだぁぁぁぁあああぁぁああ!!」 第一希望『なっちゃんの隣』 第二希望『なっちゃんの夫』 第三希望『なっちゃん』 と書かれ、『再提出』の判が押された紙でできた飛行機を――――
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