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れんは、黙ったまま誕生日の日のことを思い出していた。
嬉しそうな両親の笑顔。
「結婚できるのね」と冗談混じりに話す母。
それを必死に止める父。
なつかしそうに話す思い出。
……
あの日の母は、嬉しそうだった。
あの泣き顔ではない。
きっと、もう、母は思い出の中で泣かない。
-だから、私にも恋をしなさいって言ったんだ。
お母さんは、私が言えなかったことに気付いてたんだね。-
圭に話すうちに気付いた。
きっと、誰かに話さなかったら気付くこともできなかった。
-ありがとう、一ノ瀬くん…-
ずっと、うつ向いたまま何かを考えている圭を見つめた。
多分、私が言ったことで悩んでくれているのだろう。
普段おふざけな圭が、実はもっと真面目な人なのは知っている。
ちゃんと、ありがとうだって言ってくれる人。
…あの時もそうだった。
圭と初めて出会った日。
あの時のことを少し思い出しながら、圭には別のことを聞いた。
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