夜     †Lento†

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男は眼漿と血と涙をタラタラと流しながら奇声を上げ続けた。 温かく湿った苗床が気に入ったのか、根は急速に伸び貪欲に眼球を舐め回し、成長する。 植物の成長を早める『育命詩』で、タンポポは異常な速さで成長する。 例えるならビデオの五倍速再生で植物の一生を見る…そんな早さだ。 目から葉が伸び茎が伸び……黄色い花が咲いた。 その花はタンポポと言うには毒々しく美しかった。 無邪気と狂気をはらんだ鮮やかさ。 それらを矛盾なく合わせ持つ力強い命が、男の目から生えている。 男は、もう動かなくなっていた。 「………」 ルサルカはキーボードを元に戻して乱暴に布を被せると足早にそこを立ち去った。 いつの間にか震えが戻り、動悸が激しくなっていた。 目指す場所はどこでも良い。 此処でないどこかなら。
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