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ルサルカはキーボードを下ろして、両手を膝の上に載せて頷いた。
「大したことではありませんが……」
「いいからいいから」
ディノに促され、ルサルカはやっと口を開いた。
「ここにくる途中、見知らぬ人に殴られました」
―――『悪い事を口にだしては駄目なのよ』
―――ハープの音と美しい横顔
―――『お父様がお怒りになられたのは、つまりそういうことなのよ』
―――お母さん、貴女はそうやっていつも残酷だ
「傷は大丈夫か、痛むなら病院なりなんなりどこか行ったほうが…」
「平気です。向こうも僕を女性だと勘違いしたようで、本気では殴りませんでしたら」
気遣うディノの言葉を一蹴する。
「なるほどな」
袖口から伸びる白い腕。
小柄でほっそりとした体付きや柔和な顔。
女性だと言われればそう見えるかも知れない。
「とにかく、最近はこの辺も物騒な輩が増えて来たからな。特に夜は気をつけた方がいい」
「…はい」
ディノは視線をルサルカに真っ直ぐ向けたままコーヒーを一口啜った。
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