神の手

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     あなたは神を信じますか?  失礼な。私は怪しい者ではございません。善人のふりをした悪人が跋(ばっ)こするこのご時世、何事も注意してかかるに越したことはないですけれど。ある日住み慣れた町の路地裏で、ひょいと角を曲がったが最後、誰にも気付かれずにどこかへ連れ去られ――だなんて、ないとは言えない世の中ですから。まったく、どこもかしこも穢(けが)れておりますねえ。  おやまだそんな怪訝(けげん)な顔をして。あなた、私がお好きなはずですよ。初対面で何ですが、愛想も礼儀のうちです。もうちょっと人当たりを良くしないことには、基本的なコミュニケーションすら交わしにくくなってしまう。とは言え、わかっておりますとも。あなたがたとえ親しげに話しかける人にも用心を隠せないのは、今さっき私がふれましたように、この世の中、どこに悪意が潜んでいるのかわからないほど穢(けが)れているためです。  けれども、いいですか、考えてみて下さい。そもそも、親しく接してくれる相手の腹の底まで探らなきゃならないなんて、何ともおかしな話ではありますまいか。寂しい話ではありませんか。  人が人を信用出来ない。歪んだこの感覚が、まるで正しい不文律であるかの如く、年齢や性別にかかわらず都市に染み付いて地域を越え、国境を越えて、世界的に蔓延(まんえん)していますね。こうなるに至った原因は、いったい何なのでしょう。原因を考えたことはありませんか。
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