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地平線に浮かぶ、赤い月が真円を描く。
それは静かな夜の帷が降りた時、ただならぬ気配が冷ややかな風に乗って辺りに漂い始める頃、虫の音が止んだ。
やがて、冷ややかな風すら消え失せる。
完全なる無音の世界。
それに引き寄せられるように、赤い月を侵食する漆黒の真円が重なり合う。
そして、地上の生きとし生ける全ての者が息を潜めた。
漆黒の真円が、赤い月を呑み込まんとする。
「やはり、掟を破ってまで子を産み落とすのは、止めるべきでは無いだろうか。今なら、まだ間に合う」
「ふんっ、何を今更。我妻が、天空の王をこの世に降臨させるのだ。何を躊躇う事があろうか」
「だが、伝承では……」
「掟だ、伝承だと、そんなものが我らに何をしてくれた。虐げられてきた我らが、この子にしてやれるのはこれだけだ」
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