序章

3/3
前へ
/268ページ
次へ
   完全なる闇の中で、声を発する者の片割れは狂気に満ちた声を放ち、相手の者を萎縮させる。  その時、微かに残った月光が闇の真円に飲み込まれた。 「時は、満ちた」  狂気に満ちた声に引き寄せられるように、別の場所で絶叫が上がると直後、力強い産声が周囲に響き渡った。  そして、闇の真円に飲み込まれていた赤い月が、新たな命を祝福するように姿を取り戻す。 「あぁ……」  萎縮していた者が落胆の声を溢し、その場に崩れ落ちる。  その落胆をも打ち消すように、新たな命は再び産声を天高く響かせた。
/268ページ

最初のコメントを投稿しよう!

84人が本棚に入れています
本棚に追加