春の風に吹かれて

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「ネパールから来ました。」 予想通りの返答であった。 「日本語がえらい上手ですけどこっちに来て長いんですか?」 「ネパールの大学で日本語の勉強をしていたんですよ。」 「へぇそうなんですか。」 男は感心した素振りを見せながら、内心質問した内容と少し違う答がかえってきたことに対して、このネパール人の勉強の熱心さに感服するよりもむしろ対話能力の欠如を危惧した。 「他にはベトナム語も話せますよ。」 ネパール人は頼んでもいないのにベトナム語と思しき言語を少し話した。 「へぇすごいですね。」 男はベトナム語なぞは聞いたことがなかったので果たしてその言葉がベトナム語かどうかは判別しかねたが、取り敢えず何かしら反応をしなければ失礼にあたると思い、お座なりな感動を示した。 するとネパール人は大分気を良くして、より流暢にペラペラとベトナム語を話し始めた。身振り手振りを交えながら熱心によく分からない言語を話している。男の愛想笑いも、このネパール人にとっては最高の活力剤らしかった。
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