春の風に吹かれて

17/44
前へ
/46ページ
次へ
「これは大きな湖ですね。琵琶湖は楽器の琵琶に似ていますけどももしかしたらそこから名前をとったのですか?」 このネパール人は絶対にガイドブックを読んだ。そしてその情報をあたかも自分で発見したかのように話してくる。そう思った男は返事をしなかった。ただ返事をしなかった理由はもう一つある。男は琵琶という楽器の存在を全く知らなかったのだ。男は基本的に賢くない。賢くないがかっこつけなので、琵琶を知らない事実は隠し続ける。 返事がないのでネパール人はもう一度聞いてきた。 「琵琶の形に似ていますよね?」 「ま、まあそんなところやな。」 男は強がった。今さっき出会ったばかりのネパール人にまでいいかっこをするのは、もはやこの男の恒例行事であった。
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加