春の風に吹かれて

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暖かな木漏れ日の中をその男は歩いている。背格好から察するに大学生だろう。しかしその姿と実態が必ずしも一致はしないという事は昨今の国際情勢を鑑みても明らかである。この場合本人に聞いてみるのが一番である。 「え?俺大学生やで。」 果たして大学生であった。 男の名は稲葉物沖。幼少の頃から稲葉物置とからかわれていたのは想像に容易い。一時は百人乗れるか試してみようという、斬新かつ安直なプロジェクトが持ち上がったが、現実的に考えて不可能なのは明白なので誰も実行しようとはしなかった。 男はこの奇抜な名を特に嫌ってはいなかった。そもそもこの男はあまり自分の名前について考えた事がなかった。
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