春の風に吹かれて

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男は辺りを見回す。桜も大方散っただろうか。もうコートを着ている人なんて殆どいない程に暖かい。春を感じている彼の耳に遠くから何かが割れる音が入ってきた。先程の不細工な店員がカップを割ったらしい。あの気取った歩き方が災いしたのだ。客に平謝りをしながら奥へと逃げるように消えていった不細工な店員の後姿を見ながら、男は鞄の中から一冊の本を取り出した。 この席で読むためにわざわざ買った本である。タイトルは「携帯で小説を書くのは面倒、パソコンで書きたい。」と書いてある。男はペラペラと本をめくりすぐに鞄へしまった。元来読書なんてめったにしない彼が、見栄えだけで本を読もうとしたのが間違いなのである。飽きてしまうのに時間はかからなかった。しかし、1ページと4行の文字を読んだのは新記録である。
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