その男は死にたがる

春の風に吹かれて

エスプレッソも飲み干し、本も読み終わった男は手持ち無沙汰に空を眺めた。ため息が出るくらいに青く澄んでいる。春真っ盛りだな、と男が思おうと思ったその時何かワサワサとしたものが顔の近くを横切った。よく見ると隣に不細工な店員が立っていて、あの本屋さんで埃をはたく小さなほうきみたいなやつを持っている。

不細工は少し目を細めてエヘンと咳払いをした。エスプレッソを飲んだんなら早く帰れと言わんばかりである。

ドラえもんの世界でのび太が本屋で立ち読みをしている時に、店の親父にパタパタとされるのはよく目にするが、まさかスターバックスでされるとは殆ど夢物語である。男は全く予想もしていなかった不細工のこの行動に思わず「えぇ…」と唸った。

恐らくこの不細工は先程のカップを割った事件から立ち直れず自暴自棄になり、大幅なキャラの変更を図ったのだろう。

このはた迷惑なキャラ変更に不平不満が有りながらも、これほどにあからさまな帰れアピールをされたら帰らざるを得ない。男は店を後にした。

因みに彼はエスプレッソを飲み始めてから本を読みパタパタとされるまで、終始かっこをつけていたが最後まで視聴率はゼロであった。