春の風に吹かれて

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店から出た男は未だ先程の事件を信じられないといったふうに首を傾げながら自転車にまたがり走り出した。大してすることのなくなった男は家へと向けてペダルをこぐ。暖かな堤防沿いを走ると、幾人もの子供連れが陽の光を存分に浴びながら遊んでいる光景とすれ違った。 穏やかな昼下がり、ゆっくりと時間は流れている。男は確かに春の中にいた。 春の中にいた彼は、ふと先を走る一台の自転車を見た。非常に危なっかしい運転をしている。フラフラと、すぐにでも倒れてしまいそうな運転である。と思っているとガタンと自転車は倒れた。倒れただけならまだ良かったが、運転手がゴロゴロと土手を転がり落ちていき、川にはまるギリギリの所で動きを止めた。 男はその運転手と目が合ってしまい助けないわけにはいかなくなった。
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