春の風に吹かれて

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男は土手を駆け下り運転手の元へ急いだ。運転手の顔を見るなり男は思った。 「こいつはネパール人や。」 何故男はそう思ったか。それは、「顔を見ればその人がどの国出身かが分かる」という男の数少ない特技のおかげであった。この特技は殆ど役に立った事がない。しかし以前たった一度だけ脚光を浴びた出来事があった。 大学での食堂で友人達と談笑していた時である。この男は会話の中でしなくてもいいのにこの特技の話をチラリと自慢したのだ。しかし友人一同は一切信じない。男は数少ない特技を信じてもらえないのが余程悔しいのか、既に興味を失っている友人達にしつこく特技の説明をしている。次第にヒートアップしていき、唾を飛ばしながら大声で論説を始め、気付けば食堂内の学生の注目を一身に集めていた。 食堂の学生達は男の特技を生で見たいと盛り上がり、キャンパス内にあるステージを使い緊急企画!ポロリもあるよ留学生出身国当て大会が開かれた。食堂のおばちゃんは食器洗いで忙しく、このイベントを見る事は出来なかった。
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