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久しぶりの地元だった。
実家に帰ると、少し老け込んだ母が変わらずに迎えてくれる。父は背を向けてしまい、新聞を広げた。それでも心温かいのは、父の背中が嬉しそうだったから。父なりの照れ隠しだったのだろう。
「ちょっと出かけてきます」
「いってらっしゃい。気をつけるのよ」
母さんの声に見送られ、俺は思いのままに足を進めた。体が覚えてる感覚に、ただ身を任せる。
変わった町並みも、空気だけは変わっていなかった。
10年も前、俺はここで初めて恋をした。
恋愛沙汰に疎かった俺は、勉強や部活に熱を入れ、ある意味不健全な青春を送っていた。
そんな高校最後の夏。
受験勉強の合間に訪れた簡素な公園に、君はいた。
同い年ぐらいの君は、半袖のTシャツと短パンから覗く、日に焼けていない細い手足を晒して。色素の薄い髪。ただ真っ直ぐを見据えたぱっちりとした目。
目を細め、無邪気に笑う君に、俺はいつの間にか心惹かれていた。
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