01.蝉時雨。

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『好きだよ』 それはどちらの言葉だったか。 夏休みの最後の日、俺は君と最初で最後のキスをした。 『ん、ッ…』 鼻から抜ける、君の音。 唇に触れた柔らかな感触。 抱き寄せた君の細身の体。 柔らかい色素の薄い髪。 全てがいとおしくて、俺は夢中でその唇を塞いだ。 離れない、ように。 『バイバイ』 君の手が離れた瞬間に気づいたのは、繋がれた自分の想いだった。 『、待って』 君は夏の終わりの夕暮れに、蝉時雨と供に消えていった。 手を伸ばせども、君は振り返えらない。 あれから俺は地元を出た。 彼女が出来ても長くは続かなくて、君に似た男性を探しては、君とは違うんだと離れた。 君は今、どこにいるの?  
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