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その女の子からは洗い立ての洗濯物の様な柔らかくて甘い透き通った透明感のある清潔な香りがした。
僕がその女の子に出会ったのは……あ、[出会った]という表現は少し違うだろうか、この場合、[初めて見たのは]と表現した方が正しいだろう。実際、僕は彼女の事に関して地元の県立高校に通う女子高校生だという事以外は何もわからないわけだし、勿論その女の子と会話を交わした事なんて一度も無い。
その女の子からしても僕の事はどこかの会社で働いている会社員だろう。という事くらいしかわからないと思う。
それ以前に、その女の子は僕の事なんて全く気にも留めない毎日当たり前に通り過ぎる風景の中の一部。というぐらいにしか思われてないかもしれない。
僕がその女の子を[初めて見た]のは、今年の春。僕が地元の国立大学を卒業してから四度目の春を迎えた年の四月に入ってすぐの事だった。
毎朝仕事に向かう為の通勤電車。
そのドアを入ってすぐ右側。
電車の窓に背を向けて座る椅子。
その端の方に座って電車の発進を待ちながら文学小説の単行本を読んでいた僕の右側にその女の子は現れた。と言うより座って来た。
ごく普通に。
ごく当たり前に。
洗い立ての洗濯物の様な柔らかくて甘い透き通った透明感のある清潔な香りを身に纏いながら。
本を読む僕の視界の右端に地元の県立高校の制服のスカートが見えた。
僕が何故そのスカートを地元の県立高校の制服の物だと解ったのかというと、僕が変態でロリコン趣味の女子高生好きな人物であったからという事ではなく、僕自信その制服の高校を七、八年程前に卒業しているからである。ちなみにその高校は一応進学校で県内では中の上位のレベル。
だからこの時、僕が顔を上げその女子高生の姿を見たのは変態的趣味のせいではない。
普段ならばそれが女子高生であろうとなかろうとさほど気にはならない。いや、さすがに自分の隣にたまたま座ったのが若い女性であれば全く気にならないというと嘘になるのだが顔を上げてそれがどの様な容姿をした人物であるのかを確認しようと思う様な事は僕の場合は殆どと言って程無い。
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