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「………」
山野 大地は今、女子に囲まれている。
どうやら今は昼食の時間らしく、俺の目が覚めた頃には机はくっ付けられていた。
女子は携帯をいじりながらついていけない話をして何故か笑い出して、俺は全くついていけない。
たまに話をふられても「うん」とか「そうだね」と曖昧に返事をしておくが、何を俺に聞いているのかさっぱりわからないので返事は合っているのか不安だ。
俺の返事に満足したらしい女子らはまた盛大な高笑いを繰り返す。
ここに鏡がないからよくはわからないが、俺は女になっているらしい。
意味不明な会話を間断なく続けている女子らに何の違和感もなく溶け込めている。
それに──
俺は少し下に顔を動かす。
今まで無かったものが付いていることに俺は少なからずしっくりこないものを感じていた。
そのせいか女子に囲まれているせいか、さっきから落ち着かない。
「美花?」
「…何?」
大して嫌な思いを抱いているわけではないが、そんな風に聞こえてしまうように言ってしまったかもしれない。
かもしれないではないかもしれない、言ってしまった。
元々ぎゃあぎゃあ騒ぐようなことは出来なくなっていたし、いきなり変わることなんてできない。
だが今の俺の名前を呼んだ女子は気にした素振りも見せずに話を続ける。
「美花って好きな人いるの?」
「好きな人…?」
「美花十分かわいいからそういう人いないのかなって。ほら、あの空音ってのも十分悪くないと思うんだ」
女子は指を差さずに視線を指の代わりに差した。
その視線の先に目をやると、一人の男がいる。
俺はハッとしたようにその空音という男子を見る。
間違いない、あれは宮川 紗輝だ。
よくはわからないが直感的に、なんとなくそう思えた。
あっちは気付いていないようだが、俺は気付けた。
つまり、俺たちは同じ場所の同じ時間軸の場所にいるということか。
しばらくぼんやりとしていた俺を見て心配に思ったらしい女子の一人が「大丈夫?」と顔を覗き込んできてドキリと心臓を跳ねさせる。
うわ、ビックリした。
近いよ、顔が近いよ。
うまくやっていけるか心配になってきた。
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