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「オレのが絶対演技巧いな。このカス役者め……」
「相変わらずの自信家ですな。まぁね、否定はしないけども……」
両親が出演しているドラマは所謂“昼ドラ”である。
設定は何であれ、視聴率が高い理由は出演者だろう。
テレビを付ければお目に掛からないことはないほどの有名人。
ただし、今、リビングで有り得ないセンスのパジャマを着衣して爆睡している人と同一人物であるのを忘れてはならない。
二人のぼやきも安らかな寝息に消されてしまう。
「脚本がいくら良くったって演じる人間ダメならつまんねぇ。特に恋愛面に於いてはな」
「そうだね……。まぁ、今は顔や名前が重要だから仕方ないっちゃないんじゃないかな……」
ポテチとコーラを摘みながら暇つぶしに語るが埒が明かない。
翔斗は納得が行かないらしく大根役者を罵倒する。
撫子はごもっともな意見に相槌を打つだけにした。
「今の見たか?」
「見た」
「あんなんで女が傾くわきゃねーだろ。舐めとんのか」
「うん」
「指先をクローズアップすんならネイルケアくらいしやがれ」
「だね」
「あとキスシーン。不自然過ぎて気持ち悪ぃ……」
翔斗の母が男に襲われるシーンがある。美しい身体を晒そうとする彼女を男が台無しにしていた。
滑らかな手付き―――それが加わればそのシーンは何倍にも妖艶になる。
不意に翔斗はその男の役を撫子相手に始めた。
お互いに納得行く演技を求める時、こうして無意識的に台詞と行動が現れる。
撫子は今は色気のある令嬢、翔斗はそんな彼女に復讐したいけれど愛してしまった哀れな子爵。
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