3章 ―参話―

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城の階段を駆け上がる俺とセシル。 『妙だ』 唐突にセシルが、聞き逃してしまいそうな声で呟く。 しかし俺はそれに『何が』とは訊かなかった。 「確かにな。 ハロルド(あの爺)の様子だと俺達がやって来る事はバレてたみたいだから、てっきり待ち伏せの歓迎でもうけると思ってたけど……」 辺りを見回す必要もなく、この城には人の気配がしない。 熱烈な歓迎が無いのは嬉しいが、正直喜び以上に気味が悪い。 『違う』 「え?」 否定したのと同時に、セシルの姿が煙のように消えてしまう。 急制動をかける。 周囲を見回すが、此処には必死に螺旋階段を昇る死に損ないが一名のみ。 「どこを見ておる」 「のわっ!?」 ふぅ、と耳に息を吹きかけられた。 背筋にぞわぞわと怖気が走り、思わず跳び退く。 振り向いて、今度こそ俺は驚いた。 今俺の目の前には、その扇情的な肉体を隠すには頼りない布切れをを羽織った、人外の美しさを持つ白髪の美女。 「…………セシル?」 「フフン。ヌシよ、まるでお化けでも見たような顔をしているぞ」 お化けの方が余程害は少なそうだとは口が裂けても言えず……。 それよりも、目の前には間違いなくセシルがいた。 いつも半透明で浮遊している精神体などではなく、地に足をつけ、蠱惑的な紫色の唇を舌で舐め、けしからん胸が今目の前に……って!! 「なにしとるんじゃい!」 「ふむ。信じられないと言った顔をしているから、実体験を交え教えてやろうと」 「何を! どう! 教えんだ!!」 「女にそれを言わせるのは野暮というもの」 いつでもどこでも“たち”の悪い奴だが、なんかさらに手に負えなくなった気がする。
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