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城の階段を駆け上がる俺とセシル。
『妙だ』
唐突にセシルが、聞き逃してしまいそうな声で呟く。
しかし俺はそれに『何が』とは訊かなかった。
「確かにな。
ハロルド(あの爺)の様子だと俺達がやって来る事はバレてたみたいだから、てっきり待ち伏せの歓迎でもうけると思ってたけど……」
辺りを見回す必要もなく、この城には人の気配がしない。
熱烈な歓迎が無いのは嬉しいが、正直喜び以上に気味が悪い。
『違う』
「え?」
否定したのと同時に、セシルの姿が煙のように消えてしまう。
急制動をかける。
周囲を見回すが、此処には必死に螺旋階段を昇る死に損ないが一名のみ。
「どこを見ておる」
「のわっ!?」
ふぅ、と耳に息を吹きかけられた。
背筋にぞわぞわと怖気が走り、思わず跳び退く。
振り向いて、今度こそ俺は驚いた。
今俺の目の前には、その扇情的な肉体を隠すには頼りない布切れをを羽織った、人外の美しさを持つ白髪の美女。
「…………セシル?」
「フフン。ヌシよ、まるでお化けでも見たような顔をしているぞ」
お化けの方が余程害は少なそうだとは口が裂けても言えず……。
それよりも、目の前には間違いなくセシルがいた。
いつも半透明で浮遊している精神体などではなく、地に足をつけ、蠱惑的な紫色の唇を舌で舐め、けしからん胸が今目の前に……って!!
「なにしとるんじゃい!」
「ふむ。信じられないと言った顔をしているから、実体験を交え教えてやろうと」
「何を! どう! 教えんだ!!」
「女にそれを言わせるのは野暮というもの」
いつでもどこでも“たち”の悪い奴だが、なんかさらに手に負えなくなった気がする。
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