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セシルの体はあちら側、いわゆる魔界から俺達の世界にやって来る際、神ソレルの妨害によって肉体を失ってしまった、と聞いていた。
「あの男、どうやら此処を次元ごと弄っているようだ」
再び階段を駆け上がりながらセシルの説明を受ける。
「じゃあ此処は異次元なのか?」
「まあ、そうとも言える」
ちなみに、セシルは実体を取り戻したというより、実体化が可能になったという事らしい。
待ち伏せがいないのも、ただの人間が長時間この空間にいる事が出来ないから。
それを聞いて、もう俺って普通じゃないんだなぁーあはは、とか少し悲しくなった。
「なんにせよこっちには好都合だな」
待ち伏せがいない上に、セシルがいれば単純に頭数が増えるだけでなく戦力は倍以上。
「生だと魅力も倍じゃろう?」
害も倍なのはこの際目を瞑ろう。
階段を昇りきると、お誂(あつら)え向きの扉が出て来た。
「いかにもだな。
逆に不安になってきたけど、本当にあってるよな?」
「心配するな――」
すっ、とセシルが右手を扉に翳す。
すると間を置かずに扉が吹き飛んだ。
乱暴者め。
「ほれ、大当たり」
促され、視線をやると、扉の向こうは謁見の間らしく、一番置くには無人の椅子が三つ。
そして、円形にくり抜かれたドーム状の天井から導きのように降り注ぐ月光。
光に照らされるこの空間の中央に、膝をついて待つ白銀の騎士。
俺達がやって来たのを察して立ち上がるが、その動き一つとっても無駄のない洗練された動き。
――否、この存在を知る者である俺から言わせれば、まるで機械じみていて恐ろしい挙動。
白銀を纏いし天使。
言い換えれば、神の兵器。
「――――んぷっ!?」
グイッと胸ぐらを掴まれ引っ張られてキスをされた。
誰とか言う必要はないが一応言っておくと勿論、セシルだ。
「先程の助けた分はこれで清算してやろう」
反論する暇もなく、セシルの発言に押し黙るしかない。
くそぅ。
体中に熱が巡る。
セシルが肉体強化の魔導をかけてくれたのだろう。
正直、この魔導がなくてはあの天使とは勝負にならない。
「だがまぁ」
悪魔は舌なめずり。
「魔導をかけてやった借りが発生するから、それはまたキス一回で勘弁してやろう」
「完っ全に悪徳商法の手口じゃねえか!」
しかも俺に返済チャンスが無い。
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