3章 ―参話―

3/23
前へ
/196ページ
次へ
セシルの体はあちら側、いわゆる魔界から俺達の世界にやって来る際、神ソレルの妨害によって肉体を失ってしまった、と聞いていた。 「あの男、どうやら此処を次元ごと弄っているようだ」 再び階段を駆け上がりながらセシルの説明を受ける。 「じゃあ此処は異次元なのか?」 「まあ、そうとも言える」 ちなみに、セシルは実体を取り戻したというより、実体化が可能になったという事らしい。 待ち伏せがいないのも、ただの人間が長時間この空間にいる事が出来ないから。 それを聞いて、もう俺って普通じゃないんだなぁーあはは、とか少し悲しくなった。 「なんにせよこっちには好都合だな」 待ち伏せがいない上に、セシルがいれば単純に頭数が増えるだけでなく戦力は倍以上。 「生だと魅力も倍じゃろう?」 害も倍なのはこの際目を瞑ろう。 階段を昇りきると、お誂(あつら)え向きの扉が出て来た。 「いかにもだな。 逆に不安になってきたけど、本当にあってるよな?」 「心配するな――」 すっ、とセシルが右手を扉に翳す。 すると間を置かずに扉が吹き飛んだ。 乱暴者め。 「ほれ、大当たり」 促され、視線をやると、扉の向こうは謁見の間らしく、一番置くには無人の椅子が三つ。 そして、円形にくり抜かれたドーム状の天井から導きのように降り注ぐ月光。 光に照らされるこの空間の中央に、膝をついて待つ白銀の騎士。 俺達がやって来たのを察して立ち上がるが、その動き一つとっても無駄のない洗練された動き。 ――否、この存在を知る者である俺から言わせれば、まるで機械じみていて恐ろしい挙動。 白銀を纏いし天使。 言い換えれば、神の兵器。 「――――んぷっ!?」 グイッと胸ぐらを掴まれ引っ張られてキスをされた。 誰とか言う必要はないが一応言っておくと勿論、セシルだ。 「先程の助けた分はこれで清算してやろう」 反論する暇もなく、セシルの発言に押し黙るしかない。 くそぅ。 体中に熱が巡る。 セシルが肉体強化の魔導をかけてくれたのだろう。 正直、この魔導がなくてはあの天使とは勝負にならない。 「だがまぁ」 悪魔は舌なめずり。 「魔導をかけてやった借りが発生するから、それはまたキス一回で勘弁してやろう」 「完っ全に悪徳商法の手口じゃねえか!」 しかも俺に返済チャンスが無い。
/196ページ

最初のコメントを投稿しよう!

120人が本棚に入れています
本棚に追加