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「さてと」
冗談はこのぐらいにして、俺は腰のナイフに手をかける。
「ミラは何処だ? もしくはソレルの馬鹿は何処だ?」
「この向こう」
「えぇー!?」
そう素直に答えて、天使は奥の扉を指差した。
「そんな素直に答えてくれるとは思わなかったんだけど……」
「?」
しかし天使は、そんな事を言われる意味が分からないというように小首を傾げる。
「マスターから命令を受けてない。『言うな』と」
なんて素直で従順なんだ。
「ならさ、此処通ってもいい?」
ふるふると、騎士は首を振った。
「通すなと命令されている」
「やっぱり――なっ!」
地面を蹴る。
向こうも迎撃の構え。
変わらず俺が天使を相手にするには奇手か、敵の剣よりさらに間合いの近い接近戦しかない。
――――一対一(タイマン)ならな!
「黒撃」
軍靴が火花を散らし急制動をかけると、待ち構えていた天使の体が強張る。
入れ違いに放たれるのは、頭上からの黒い閃光。
素早い反応を見せる天使は剣を頭上に翳し、セシルの魔導を受け止める。
がら空き!
逆手に持ったナイフの先端を、鎧の隙間から天使の腹部に差し込む。
ぐらりとよろめき、手応えもあった。
しかし悪寒に従って刃を引き抜き離れる。
その鼻先を、振り下ろされた剣が掠めた。
天使は刺された瞬間こそよろめいたものの、まるで何事もなかったかのように立っていた。
刃で突いた鎧の隙間からは、明らかに致命傷と思われる赤い血液が流れ出ている。
なのになんであんな立ってられんだよ!?
「おいおい。
まさか不死身とか言わねえよな?」
「ヌシはワシの話しを聞いてなかったのか?」
呆れられたようにため息を吐かれた。
「アレは人の形をしていても人でなく、神に近い。
生物ではなく兵器だと言っただろう」
「兵器だから殺せないってか?」
「殺せない。“壊せるだけじゃ”」
だから天使はこの戦力差に絶望などしない。
そもそも計算などしないから。
だから天使は立っている。
そもそも痛覚なんてものもないから。
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