3章 ―参話―

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「さてと」 冗談はこのぐらいにして、俺は腰のナイフに手をかける。 「ミラは何処だ? もしくはソレルの馬鹿は何処だ?」 「この向こう」 「えぇー!?」 そう素直に答えて、天使は奥の扉を指差した。 「そんな素直に答えてくれるとは思わなかったんだけど……」 「?」 しかし天使は、そんな事を言われる意味が分からないというように小首を傾げる。 「マスターから命令を受けてない。『言うな』と」 なんて素直で従順なんだ。 「ならさ、此処通ってもいい?」 ふるふると、騎士は首を振った。 「通すなと命令されている」 「やっぱり――なっ!」 地面を蹴る。 向こうも迎撃の構え。 変わらず俺が天使を相手にするには奇手か、敵の剣よりさらに間合いの近い接近戦しかない。 ――――一対一(タイマン)ならな! 「黒撃」 軍靴が火花を散らし急制動をかけると、待ち構えていた天使の体が強張る。 入れ違いに放たれるのは、頭上からの黒い閃光。 素早い反応を見せる天使は剣を頭上に翳し、セシルの魔導を受け止める。 がら空き! 逆手に持ったナイフの先端を、鎧の隙間から天使の腹部に差し込む。 ぐらりとよろめき、手応えもあった。 しかし悪寒に従って刃を引き抜き離れる。 その鼻先を、振り下ろされた剣が掠めた。 天使は刺された瞬間こそよろめいたものの、まるで何事もなかったかのように立っていた。 刃で突いた鎧の隙間からは、明らかに致命傷と思われる赤い血液が流れ出ている。 なのになんであんな立ってられんだよ!? 「おいおい。 まさか不死身とか言わねえよな?」 「ヌシはワシの話しを聞いてなかったのか?」 呆れられたようにため息を吐かれた。 「アレは人の形をしていても人でなく、神に近い。 生物ではなく兵器だと言っただろう」 「兵器だから殺せないってか?」 「殺せない。“壊せるだけじゃ”」 だから天使はこの戦力差に絶望などしない。 そもそも計算などしないから。 だから天使は立っている。 そもそも痛覚なんてものもないから。
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