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「さて、ご用件は何でしょう」
「白々しいな、誘拐犯」
「人聞きの悪い」
ソレルはくすぐったそうに笑う。
「“アレ”は元々僕のです。
それに何度も訊きますが、“アレ”があなたにどれほどの価値があるんですか?」
また、言いやがった。
この野郎はまたミラを“モノ”扱いしやがった。
「……もうひとつ用件思い出した」
「何でしょう?」
俺は地面を蹴る。
「一発殴らせろっ!」
危険な程大胆に間合いを詰める。
するとソレルもまた、堂々と両手を広げてみせた。
「やれるものならどうぞ」
突き進む。
「しかし出来ますか?」
突き進む。
「あなた達人間は、どこまでいっても僕のものだ」
ソレルは人間が決して自分達に逆らえないよう、手出しが出来ないよう造り変えた。
「太陽に手が届かないように、あなたの攻撃が僕に届く事もありえ――――」
踏み込み、ソレルの顔面を砕く勢いで殴りつける。
余裕ぶっていた優男の顔の頬に右拳が突き刺さる。
「あれ?」
むしろ驚いていたのはソレルより俺自身であった。
当たった?
尻もちをついたソレルが、赤い頬にそっと触れる。
「へ? あ? い、たい。痛い?」
芋虫のようにもぞもぞと身を捩(よじ)らせ、ソレルは立ち上がる。
その頬をもう一度ぶん殴る。
「がっ……!」
やはり、当たった。
「な、なぜ……?」
地面に臥して、頬を抑えながら訴えてくるソレルはなんというか、惨めだった。
だが俺にも分からん。
「クッククク……」
いや、分かりそうな奴を一人知ってる。
「惨めよな、神よ」
俺も思っていた事だが、はっきりと口にする辺りやはりセシルは容赦ない。
「貴様の呪縛を受けていない悪魔(ワシ)ならともかく、アルベルなら平気だと思っていたのだろう?」
『甘い甘い』と愉快そうなセシル。
「むしろこ奴はこの世で唯一貴様を殺せる存在」
「なん、だと?」
「この男がどういった存在か忘れたか?」
それでソレルはピンときたらしい。
「そ、うか……こいつは一度死んで……」
「そう。一度死んだこの男は蘇った。
ワシ(悪魔)の手で、しかし中途半端に。
最早こ奴はこの世界の理から外れている」
輪廻の輪から外れた存在(サークルアウト)。
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