3章 ―参話―

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「さて、ご用件は何でしょう」 「白々しいな、誘拐犯」 「人聞きの悪い」 ソレルはくすぐったそうに笑う。 「“アレ”は元々僕のです。 それに何度も訊きますが、“アレ”があなたにどれほどの価値があるんですか?」 また、言いやがった。 この野郎はまたミラを“モノ”扱いしやがった。 「……もうひとつ用件思い出した」 「何でしょう?」 俺は地面を蹴る。 「一発殴らせろっ!」 危険な程大胆に間合いを詰める。 するとソレルもまた、堂々と両手を広げてみせた。 「やれるものならどうぞ」 突き進む。 「しかし出来ますか?」 突き進む。 「あなた達人間は、どこまでいっても僕のものだ」 ソレルは人間が決して自分達に逆らえないよう、手出しが出来ないよう造り変えた。 「太陽に手が届かないように、あなたの攻撃が僕に届く事もありえ――――」 踏み込み、ソレルの顔面を砕く勢いで殴りつける。 余裕ぶっていた優男の顔の頬に右拳が突き刺さる。 「あれ?」 むしろ驚いていたのはソレルより俺自身であった。 当たった? 尻もちをついたソレルが、赤い頬にそっと触れる。 「へ? あ? い、たい。痛い?」 芋虫のようにもぞもぞと身を捩(よじ)らせ、ソレルは立ち上がる。 その頬をもう一度ぶん殴る。 「がっ……!」 やはり、当たった。 「な、なぜ……?」 地面に臥して、頬を抑えながら訴えてくるソレルはなんというか、惨めだった。 だが俺にも分からん。 「クッククク……」 いや、分かりそうな奴を一人知ってる。 「惨めよな、神よ」 俺も思っていた事だが、はっきりと口にする辺りやはりセシルは容赦ない。 「貴様の呪縛を受けていない悪魔(ワシ)ならともかく、アルベルなら平気だと思っていたのだろう?」 『甘い甘い』と愉快そうなセシル。 「むしろこ奴はこの世で唯一貴様を殺せる存在」 「なん、だと?」 「この男がどういった存在か忘れたか?」 それでソレルはピンときたらしい。 「そ、うか……こいつは一度死んで……」 「そう。一度死んだこの男は蘇った。 ワシ(悪魔)の手で、しかし中途半端に。 最早こ奴はこの世界の理から外れている」 輪廻の輪から外れた存在(サークルアウト)。
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