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ゴキン! という嫌の音をさせて、俺は一人悶絶していた。
というのも折れた首の骨を無理矢理はめ直したのだ。
勿論、それは言葉に出来ない激痛を伴う為、みっともなく涙はハラハラ流れている。
けれどこんな馬鹿げた体を今日ほど有り難く思った事はない。
「なんせ、神様を敵にするには命がいくつあっても足りないからな」
首に手をあてて調子を確かめる。
その様子を、ソレルは苛立たしげに見ている。
「化け物め」
「傷つくな。俺は人間だ」
「は。あなたの一体どこが人間なんですか? 化け物」
すっと差し出した左手に炎が灯る。
「でも化け物といえど、体を灰にでもしてしまえばもう復活は出来ないのでしょう?」
図星だった。
俺の体は不死身であって無敵ではない。
ある程度の原型を残したうえで、セシルに蘇生させてもらう事が条件。
先程のような骨をはめる荒業でもない限り、俺はすり傷一つ自分で治せない。
炎をちらつかせてプレッシャーをかけてくるソレルに、思わず後退る。
この場にはもう一人。
「それをワシがさせると思うか?」
セシルはソレルの背後に現れると、下手なナイフより鋭い五爪で喉を抉りにいく。
しかし読んでいたのか、瞬時に反応したソレルの槍が五爪を受ける。
「薄汚い蛇め……。
これ以上僕の世界で這いずるな。
目障りなんだよ!」
薙払うソレルの力に逆らわず、セシルは間合いをとる。
神と、悪魔の王の対峙。
「自分の世界、か。
ヌシは大婆様の話し通り、傲慢な男だ」
「傲慢? それは違います。
僕は神です。傲慢ではなくこれは統治。
無知な存在を導くのは神たる僕の役割だ」
「ふざけんな」
俺は逆手にナイフを構える。
「そんなの結局テメエの支配じゃねえか」
「せめて管理と言ってもらいたいですね」
「どっちでも同じだ。
俺達はあんたに縛られる筋合いなんてない!」
「筋合い?」
ソレルはくるりと体を回し俺に正面を向く。
「何を的外れな。
それを選べる自由を君達が持っているつもりですか?
自由は与えられるもの……、そして僕は君達にそれを与えたつもりはない。
勿論、これからも与えるつもりはないですけど」
与えるのはいつも恐怖だけ。
ソレルが満たしたいのは己の支配欲なのだから。
「そう、自由など与えていない。
君達にも――“外の連中にも”」
「!?」
「聖撃」
笑みと共に、ソレルは指をはじく。
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