0章 ―零話―

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“コイツ”との出会いは戦場だった。それも既に戦いは終わり、残ったのは薬莢(やっきょう)と主を失った剣達。それに鼻につく鉄の臭い。 いや、わざわざ遠回しな言い方をする必要もない。 鼻につくのは血の臭い。硝煙と混じり、焼け焦げた肉と混じり、激臭が鼻を突いてもう嗅覚が麻痺しそう。 仲間は全滅。といっても、特に感情の揺れはない。 今日初めて会って今日初めて組んだ奴等だからだろう。これがよく知った顔見知りの奴だったり、長年の親友とかだったら発狂でもしてたかな? 分からん。 かくいう俺も死にかけてるから、そんなこと考えられないのかもしれない。 今はほとんど寝そべった体勢で壁に寄りかかっている。元は家だっただろうそれは、今は戦いの影響でこの寄りかかっている壁一枚しか残ってない。 ヌチャ。 腹を這(は)わせた手にペンキみたいに赤い液体がつく。穴の空いたそこからは、まだとめどなく血が溢れている。致命傷なのは明らかだ。 もうすぐ俺は死ぬ。血は止まらないし、治してくれる奴は此処にはいないし、いる所まで歩く元気もない。 目が霞(かす)む。初めは痛かった腹の傷も、もう痛いかどうかも分からない。 「あぁ、ヤバい。血が……」 力が入らない。 血液が流れ出る度に自分の命の残量が減っていくのが分かる。 そういえば先月の家賃払ってないなぁ。あ、冷蔵庫に残した肉食っとけば良かった……勿体無ぇ。 これが死ぬ直前に見る走馬灯ってやつか? ――違うな。 つか死ぬ直前に思い出すのがこんな程度の俺の人生ってば。 涙が出るかと思ったが、もう体中の体液が出尽くしたのか涙も出てこない。 「こりゃ死ぬ。……マジ死ぬ」 頭がボーっとしても、くだらないぼやきだけは勝手に出てくる。 「何だヌシ、死にそうだな」 「……?」 声が、聞こえた気がした。 気のせいに決まってる。此処に残ってるのは使い捨てられた武器か、死体と死にかけの俺だけ。 死体は喋りはしない。なら残ってるのは俺だけだ。 「いや、死にかけてるのか」 やっぱり聞こえる。幻聴ではないらしい。 鉛のように重い瞼を持ち上げると、紫色の瞳がこちらを見下ろしていた。
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