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見下ろしていたのは女性だった。
場違いにも、死にかけてるのにも拘わらず俺は見とれてしまった。
膝裏まで届きそうな程長い絹のような白髪。血が通ってないのではと心配になる程白い肌。
一糸纏(まと)わぬ姿でこちらを見る宝石のような紫色瞳。人外なまでの美しさと妖しさ。何者にも媚びぬ、孤高なまでの美しさを体現した女性だった。
「うむ? 死にかけてるのか、死んでいるのか」
女性は問い掛けているようだった。紫色の瞳は確かに俺を見下ろしている。
「……死にかけにしちゃ、気がきいた幻覚だ」
吐いて出たのは軽口だった。まったく嫌になる。
女性は軽口ついでに血を吐いた俺を見て、桜色の薄い唇を微笑にひきつらせた。
「感心感心。生きておるな」
女性はこちらに近付いてくる。視線が、近付いてくる彼女の姿ではなく、量感のある完璧なまでの曲線を描く胸にいってしまうのは死にかけでも男の性(さが)だ。
恥じらいもせず堂々と歩を進める彼女はやがて俺を真下に見下ろすまで近付いてきた。
「……もしかして、天使って……か? はは、天国でも、連れてってくれんの」
「ハハ、天使? ワシが?」
彼女はますます唇をひきつらせる。そして腹を抱えるように笑い出した。
軽いジョークがここまでウケたのは今終えかけている生涯で初だ、と内心喜んでいると、彼女はとんでもない事を言い出した。
「ワシは――悪魔じゃ」
ゴプッ。
思わずツッコミを入れようとしてしまい、腹の穴から血が勢いよく溢れた。
俺の馬鹿。なに寿命縮めてまでツッコミ入れようとしてんだよ。
「大丈夫か、ヌシ」
女性は膝をかがめて腹の穴を見下ろす。風穴空いている上に血の海に沈んでいる人間に『大丈夫か』はないだろうに。
しかもそう言葉をかけながらも、彼女の表情は相変わらず微笑のまま。
死にかけの人間を目の前に微笑を浮かべられる彼女は間違いなくイカレてるのだが、その微笑がやはり美しいのだから質(たち)が悪い。
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