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「はあ? 泣き声による騒音被害?」
黒髪を携えた小柄な少女がすっとんきょうな声を上げた。
その少女が身に纏うのは少し変わった紅白の巫女装束。普通の巫女装束と違うのは、脇の部分がすっぱりとなくなっているということだ。頭に白いレースの付いた赤い大きなリボンを着けているというのも巫女という役柄からすれば少し不思議ではある。
少女の名は博麗霊夢。
「冗談の様に聞こえるかもしれないが……事実なんだ」
対して、深刻な表情を浮かべる少女――上白沢慧音。その目尻にはっきりと濃い隈が出来ていた。
「いつからかはもう忘れてしまったが、毎晩毎晩けたたましい泣き声が聞こえてきてな……全く眠れないのだ。私一人がそうだったなら然したる事ではない。しかし、この泣き声被害は人間の里全体という規模なのだ」
「成る程ねえ。でも、泣き声だけなんでしょ?」
「ああ、だから逆に厄介なんだ」
本当になす術がないと言うようにがっくりと肩を落とし、大きく溜め息を吐く慧音。ここのところの騒音被害でろくに睡眠をとれていないのだから無理もないだろう。
今も必死に睡魔と戦っているのもうかがいとれる。
「ふうん。つまり私にその泣き声の原因を突き止めて、泣き止ませろって言いたいわけね」
「ああ、出来るだけ早くな。一際泣き声が強く聞こえたという家ではすでに死人もでている」
「死人ねえ……」
死人が出ている。そこまで深刻な問題なのに自分が全く気づけなかったという事に、霊夢は些か疑問を抱いた。
博麗の巫女である霊夢は今まで持ち前の勘で異変に気づき解決してきた。それなのに今回は気づくことすら出来なかったのである。
それは霊夢にとって異常なことだ。いくら範囲が人間の里だけだったとはいえ、死人が出るほどの異常自体を感知すらも出来ないということがある筈がない。あってはならないのだ。
「分かった。この一件、私が何とかするわ」
「そうか……助かる」
「人里が全滅なんて事になれば色々厄介だしね。それに、死人が出たような事件に全く気づけなかったというのも悔しいもの」
「ああ……それじゃあ、頼んだぞ」
「ええ。まあ、私が異変を解決してくるのを布団の中ででも楽しみに待っていなさい」
慧音に別れを告げて意気揚々とその場を後にする霊夢。
そうして博麗の巫女は、御幣を片手に異変解決へと乗り出したのであった。
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