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完全に見下した物言いに私は反論する。
「そっちがやればいいじゃない!」
「オレはめんどくせーからヤだ。
お前どーせヒマだろ?」
実に自己中な理由で問答無用に『二割引きセール実施中』と書かれた巻紙を押し付ける。
大和が指差した場所はドリンクコーナーの上で、脚立があっても届くかどうか…
あ、もしかして。
「あんた背低いから届かないんでしょ?」
「う、うっせーな!
つべこべ言ってねぇで早く行け!!」
私は図星で赤くなっている少年を笑うだけ笑うと、脚立を持って冷蔵庫の前に移動した。
いっぱいに手を伸ばし、セロハンテープで四隅を留めていく。
なんか足元がぐらつくなと思ったら、脚立は結構年期が入って錆びていた。
まぁ、あと一カ所貼っちゃえば終わりだし、平気でしょ。
と気楽に考えた私の目の前に、不確定要素なアレが現れた。
「 クモじゃー!!!! 」
戦国武将みたいな語尾で私は絶叫した。
虫の中でもクモは見るのもイヤなランクNo.1に入る私の天敵!
つつつー、と糸を伝って降りるヤツにパニックになる。
「うわわわわわ!!」
脚立の上なんかで暴れたら当然バランスを崩すわけで――
私の視界は大きく右に傾く。
私、死ぬかも。
時間がゆっくりになるというマトリックスな体験をしながら、きつく目を閉じた。
でも感じたのは軽い衝撃だけで、私はがっしりとした腕に抱き留められていた。
「…大丈夫っスか…」
私を後ろ向きに抱える形で日向くんが尋ねる。
――生きてる。
わかった瞬間、心臓が思い出したように鳴り始める。
「あ゛り゛がどう゛ござい゛ま゛ずー!!」
ぶりかえした恐怖と安堵感で鼻声の私は日向くんに泣きついた。
彼の胸は広くてとっても安心する。
しばらくして落ち着いた私は我に返った。
私どさくさに紛れて男の子に抱きついてるよ!?
「ごめんなさいごめんなさい!!」
バットに負けないスイング速度で平謝りする私に、日向くんはほんの少し微笑んでまた品出しの作業に戻った。
あの人が笑ったの初めて見た…
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