バイト注意報。

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気合いを入れて入口をくぐろうとする俺を、赤毛の男が口笛を吹きつつ追い越した。 目の前で閉まる自動ドアに息を吸い直し、もう一度足を踏み出す。 気分は道場破りだ。 店に入って口の中で面接の練習を繰り返した。 よし、いける。 「すいませ…ん?!」 いざ勝負!と店員に話しかけたら、それはさっき追い越された赤毛の男だった。 ここのバイトだったのか… 「はーい何かな?」 男は軽く返事をする。 ワイシャツにカフェエプロンの格好が妙に様になっている。 俺はそのイケメンオーラに思わず口ごもった。 「あ…えっと、バイトの面接したいんですけど」 イメージトレーニングではかっこよく『雇ってくれ!!』ぐらい言ってやろうと思っていたが、構うもんか。 男はちょっと待っててね、とバックルームをのぞく。 「店長ー、バイト希望の少年が来てるけど?」 店長とタメ口のバイトってどういうことだよ。 部屋からは店長らしき人物の声が返ってくる。 「今ゆきのちゃんのデートイベントだから! さがみん代わって!!」 ずいぶん若い声な上に、イベントって…ギャルゲー?! 俺は予想をはるかに越えるGマートの実態に絶句した。 はいはいと『さがみん』がため息をつく。 「んじゃ、俺が面接するね。 君、顔はフツーに合格ライン越してるから大丈夫だとは思うよ」 顔で選ぶのかよ! 驚きの選考内容に冷や汗を流す。 でもそれなら出雲が合格したのもわかる。 「あれ?常陸もコンビニ来てたんだ」 そうそう、声もかわいいし。 ――…ん? 「な、片桐っ?!」 私服の出雲がすぐそばに立っていた。 このタイミングで来ちゃいますか、お前は。 隠れてきた意味ねぇ!! 「出雲ちゃんと知り合いなの?」 当然のように名前にちゃん付けで呼ぶ男。 出雲も仲よさ気に答える(ように見えた)。 「はい、常陸は幼稚園からの幼なじみなんです」 幼なじみ<恋人=越えられない壁だということを知らない出雲はあっさりと言った。 いつかその壁を越えるのが俺の夢だ。
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