うなれ!爆音!!

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彼は緑色のエプロンについたポケットから飴玉をひとつかみ、私に握らせた。 ってこれ、テレビで紹介されてた有名洋菓子店のキャンディだ! 一缶500円以上するやつ。 「いいんですか?」 喜びが顔から漏れてる私に、日向くんは頷いた。 「…友好のしるしに…」 無口な彼はそれきり黙ると、普段通り乱れのない業務を遂行し始める。 『友好』という言葉がうれしくて、私はニヤニヤしてしまった。 こんなの見られたら、また大和にバカにされるんだろうな。 そこに相模さんが専用のワインレッドのエプロン姿で現れた。 「良いことあったの? にこにこしてるけど」 彼が妖艶な笑みで問いかけるので途端にうろたえてしまう。 きれいな顔立ちがすぐそばにあって、緊張の糸がぴいんと張りつめた。 「ええっと…その…」 言葉が詰まってうまく出てこない。 英語の発音テストでもこんなに緊張したことないのに… それにひきかえ、相模さんはにっこり楽しげ。 うう…誰でもいいから助けて! 私の必死の祈りが効いたのか、店にバイクが突っ込んできた。 ――なんで?! 豪快に窓ガラスが粉砕、メタリックな塗装のバイクが雑誌の棚をぶち破っていた。 ライダーは別冊マーガレットを頭に被って気を失ってるみたい。 「…こういう場合、どうしたらいいんでしょうか」 私の言葉に、さすがの相模さんも声を失って苦笑した。 「とりあえず警察と救急車呼ぼっか」 私は祈りを捧げたことを悔やんだ。 ちなみに、ちょうど帰ってきた店長がこの光景に気絶していたことは誰も知らなかった。 「で、なんでうちに突撃してきたワケ?」 相模さんが目の覚めたライダーに尋ねる。 すまなそうにうつむいて、少し不良風味の見た目をした高校生は答えた。 「ヘルメットん中にカナブンが入ってきちゃって…振り払おうとしたらハンドルミスりました」 笑っちゃいそうなので想像するのはやめた。 でも『この店に恨みが!』とかじゃなくてよかった。 それに不良自身ケガがないようだし。 たぶん大量のジャンプとサンデーが犠牲になってくれたからだろう。
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