うなれ!爆音!!

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「自分は能登正義(ノト マサヨシ)と言います。 お詫びと言っては何ですが、こき使ってもらって構いません」 そう言って彼はまた頭を下げた。 現代では貴重になってしまった、硬派な不良だった。 能登くんの真摯な態度に、寝込んでいたはずの店長が跳ね起きる。 「キミのその心意気、しかと受け取った! ボクは感動したよ!!」 しきりに頷く店長。 そこに修理屋さんが到着した。 ひらめいたように店長が言う。 「じゃあお店の修理手伝ってもらおうかな?」 「そんなことでいいなら喜んで」 彼は心得てすぐに行動に移る。 その背中は『漢』以外の何者でもなかった。 感心した相模さんが、 「あいつ店長より役に立つんじゃない?」 と漏らした。 それで店長がまた寝込んだのは内緒。 夕方もお客さんはちょいちょい来るので、私たちはレジ対応に追われた。 その間窓からは、修理屋さんの指示に従って働く彼の姿が見えた。 他人ためにこんなに一生懸命働く人を私は今まで見たことがない。 「あんた筋がいいね。 このままうちに就職しないかい?」 手際のいい青年に修理屋のおじさんは言った。 能登くんのおかげで作業は格段に早く終了したみたいだ。 私はポカリスエットを持って近付いた。 「お疲れ様でした」 彼は色素の薄い瞳を向けた。 近くで見ると外国人みたいな顔のつくりをしているのがわかる。 「これ、店長から差し入れです」 冷たい缶を手渡す。 縁石に二人して腰掛け、ふと彼を見る。 そして私は慌ててポケットをさぐった。 「すごい汗ですよ?」 タオル地のハンカチを、汗に濡れた首筋に当てる。 春とはいえ、今日は太陽が照りつけて暑かったんだろう。 能登くんは突然添えられた手にぎょっとした様子で目を見開いている。 私は彼にハンカチを握らせる。 「よかったらこれで拭いて下さい。 私、見てるだけだったし――」 女の子はいざって時に力仕事ができないから、いつも男の子に頼ってしまう。 それが申し訳なかった。
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