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[バイト注意報。]
「出雲バイト始めたの?」
次の日の朝。
親友の圭ちゃんが自慢の情報網から入手したらしく、私に聞いてきた。
いつもながら耳が早い子だ。
「うん。面白いよ」
私が言うと、圭ちゃんは急に小声になって顔を近付けた。
「あんた、例のホストコンビニで働いてんでしょ?」
ホスト…なんだって?
よっぽど頭上にはてなマークが出現していたのか、圭ちゃんは「これだから出雲は」と頭を抱えた。
なんだか悔しいのは気のせいですか。
「有数のイケメンを揃えたGマート。
ゆえに『ホストコンビニ』の異名を持つ。
ファンの女性客は数知れず…
今まであんたが知らなかったのが不思議なくらいよ」
そんだけ詳しく知ってる人もいないと思う。
っていうか、私そんなところに入ったんだ…
ちょっと衝撃を受けてると、横で話を聞いていたある男子が口をはさんできた。
「片桐お前、あんなコンビニで働いてんのか?」
男子の名前は田辺常陸(タナベ ヒタチ)。
神社の敷地を挟んだ向かいの家の幼なじみで、小さい頃はしょっちゅう遊ぶ仲だった。
なぜか険しい顔の常陸に、
「せっかく採用されたんだし、がんばってみたいと思うんだけど」
と私は答える。
すると複雑な表情を浮かべ、常陸は黙りこんだ。
そして立ち上がると決心したように私に指をつきつける。
「お前がそう言うならこっちだって考えがあるからな!」
捨てゼリフみたいな言葉を投げつけ、彼は教室を飛び出していった。
…授業どうすんだろ。
「出雲、あんたってホントにミス鈍感だね」
呆然と見送っていた私に圭ちゃんが言う。
そんな称号いらないよ!
――その頃、階段で立ち止まった男子はつぶやいた。
「あいつ、俺の気も知らないであんなとこ入りやがって」
田辺常陸、苦悩の16歳。
怒ったような顔で叫んだ。
「こうなったら俺もGマートでバイトしてやる!!」
階段に響き渡る声に教室から先生が顔を出し、
「おい田辺静かにしろ!サボりか?!」
と怒鳴る。
常陸は階段を駆け降りて逃走した。
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