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「おはようございます。大河原さん。」
なつきは動揺を精一杯隠し、しっかりと挨拶をした。
つもりだったがその声は完全に震えていた。
「おはよ。弁当忘れてるでしょ?」
大河原さんはそんななつきの心情を知ってか知らずか、肩をすくめ
なつきの鞄に視線を送った。
それを受けなつきは鞄の中を手で探る。
教科書、筆記用具、鏡、友達に一年前に借りたCD、絆創膏、お茶の入ったペットボトル…
カツン
なつきの人差し指の爪が何かとぶつかり渇いた音が鳴った。
なつきはこれが弁当だと思い、鞄から引っ張り出した。
しかしそれはトムとジェリーのVHSだった。
「あっ!本当だ。」
なつきは大河原さんの顔を見て、すぐにVHSを鞄に戻した。
大河原さんにそれを見られたら、なつきが中学生にもなってトムとジェリーが大好きだというのがばれると思ったからだ。
特にジェリーの大ファンだと。
「ほらね。」
大河原さんはいたずらな笑みを浮かべ、なつきにウィンクをした。
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