9人が本棚に入れています
本棚に追加
『ちょーきれー!ね、青だべ青っ』
太陽の光が水面に反射し、キラキラと輝く。
海に囲まれたこの王国には、その国に似つかわしい程の笑顔が溢れていだ。
平和、一言で言えばそれが適格だろう。
『すーぐーる!早く早くっ!』
『解ったからちょっと待てって、って走んな馬鹿っ』
『だって卓おっせーんだも…っわ』
雄輔が振り返った瞬間、訪れた衝撃。
人とぶつかったと認識するにはさほど時間はかからなかった。
『す、すみません、大丈夫ですか?』
『あーヘーキっ、こんくらいヨユー』
差し出された手に掴まれば、そこには優しい笑顔。
『あれ?何か見たことある気がする』
『お久しぶりです、雄輔王子』
『…何で俺んこと知ってんの?』
目を丸くしながら目の前の相手をマジマジと見つめる雄輔。
『ってお前…この国の王子の顔忘れたのかよ!』
『お、王子?え?』
『はじめまして、野久保直樹です』
野久保直樹、その名は王家の者なら一度は耳にしたことがあるであろう、正しくこの国の王子の名前。
『王子…野久保、直樹…………王子様っ!?』
『気付くの遅ぇよ馬鹿!!』
呆れた様子で卓は大きく溜息をついた。
『あ、あの…し、失礼しました…っ、俺…じゃなかった、私…え、私?と、とりあえず上地雄輔でっす!』
『ははっ、面白い方ですね』
直樹は笑顔を見せ視線を合わせる。
可愛い、それが雄輔の受けた印象だった。
『あ、あの、直樹王子…』
『やめて下さいよ、そんな堅苦しい呼び方。好きなように呼んで下さい、ね?』
『じ、じゃあ…ノク、野久保のノク、でもいい、ですか?』
『はい』
相変わらず柔らかい笑みを崩さずに頷く直樹。
この時既に、雄輔は胸の奥に芽生えた特別な感情に気付いていた。
一目惚れ、そのような言葉は知っていたがまさか自分がそうなるとは。
だがその幸せな感情は、直樹の一言で虚しくも砕かれる。
『僕、今度結婚するんですよ』
隣の国の、崎本くんと。
それは酷く雄輔にのしかかった。
【暴君王子が恋するは
海の向こうの青い人
だけども彼は隣国の
緑の男に一目惚れ】
最初のコメントを投稿しよう!