悪ノ娘

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『あー…』 『おい』 『うー…』 『聞いてんのか』 『聞いてなーい』 『確実聞いてんな』 部屋へと戻った雄輔は枕に顔を埋めたままずっとそのような様子だった。 好きになった相手に恋人ならぬ婚約者が存在したのだから、普通の反応であると言えばそれまでだが。 『何泣いてんだよ?』 『泣いてねーもん』 『泣いてる』 『泣いてねー…』 『素直じゃねぇ奴は嫌いだ』 『………な、泣いて、る…』 『ほら見ろ』 『っ、……』 雄輔が卓に飛び込んだ。 『…ノク、っ…サッキーと結婚すんだって…っ』 『ああ…』 『好きになって、すぐ…なのに…っ』 優しく頭を撫でてやる。 大きな体が小さく震えているのが解った。 『辛ぇ、よ…っ…』 『ん…』 卓は決して器用な人間ではない。 かける言葉が見つからなかった。 ただ一つ言えるのは、卓自身、直樹の婚約者である崎本大海に恋をしていたということ。 だが、今それを言うべきではないと言うことは理解していた。 そんな時、ドア越しに卓を呼ぶ大臣の声が聞こえる。 『雄輔、ちょっと行って来るから』 『ん…』 雄輔は、この時卓から離れたことを後に後悔することとなる。 【嫉妬に狂った王子様 ある日大臣を呼び出して 静かな声で言いました 緑の国を滅ぼしなさい】
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