19人が本棚に入れています
本棚に追加
「ったく、あのクソジジィめ」
ブラムが何時も注文する白身魚のサンドイッチとレモンティーが届くまでの間、ブラムは何時ものように愚痴る。
「いっつも人をドラムみたいに叩きやがって、クソジジィが……」
この場に居ないクソジジィを扱き下ろすのに集中する余り、ブラムは今しがたカフェに到着したご老人に気付いていない。
が、周りの常連達はバッチリ気付いているので、今後の展開に期待してブラムに注目する。
「だいたいよぉ……ん?」
空気を読むのはあまり得意では無いが、それでも賑かだったカフェ内が一斉に自分を見ているとなると話は変わる。
そして悟る。
やっちまった……と。
死神を見るようにブルブルと震えて首を後ろに回すと……
そこには件のクソジジィ否、憤怒の魔王が降臨していた。
「あ゙……親方」
「ブラムーーッ!」
「ヒィィッ!!」
窓ガラスがカタカタ揺れる程の声量を受け怯んだブラムの脳天へ、もはや石壁を破壊出来るんじゃないかと錯覚してしまう程の威力を秘めた鉄拳制裁と言う名のストレートパンチが襲いかかる。
ゴツーン……と、とても人体で人体を殴ったとは思えない音が響く。
「イッタァァア!」
毎度の事とは言えあまりの激痛に椅子から転げ落ち石床の上で悶絶するブラム。
と同時にカフェから沸き起こる爆笑。
ブラムが親方と言った事からもわかる通り、この二人は師弟関係。
工房の仕事をサボっては見付かりどつかれる。
週一ペースでこんなコントみたいな事が起こるのだ。
「イッテェ~何しやがるクソジアタッ!!」
目に涙を溜めて立ち上がった瞬間、またどつかれた。
「黙れこの子童が。このワシから逃れようなんぞ千年早いわ!」
再び悶絶するブラムを見下ろす無駄に引き締まった筋肉を持つこの老人こそ、この街でひっそり楽器工房を営む腕利きの職人であると同時、戦災孤児であるブラムにとっての唯一の身内、獅童義正だ。
名前が呼びにくいから皆からはよくシドーと呼ばれている。
最初のコメントを投稿しよう!