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「すみませーん!」
少女はこちらを確認してボールを持っていると確認したようだ。
ピンクのユニフォームを着た
セミロングの小柄な少女。
その子は右手につけた
青いグローブを自分の頭より高く振り上げて、
「お願いしまーす!」
ボールを要求してきている。
俺は、その子へと向けて
拾った白球を投げてあげた。
パシィーン!
気持ちがいい音が静かな公園に鳴り響いた。
「…。」
ボールを受けた少女は
無言でその場から動かない。
もしかして、
さっきの送球が強すぎて
手を痛めてしまったのではないか?
という心配が俺の頭の中を過ぎった。
すかさずベンチから
少女のもとへと走った。
「ごめん!もしかして痛かった!?」
多少焦り気味の俺とは対象的に
その少女は顔を上げると、
何故か目を輝かせ、
こちらを見つめてきた。
「へ…?」
俺の必死だった顔が一瞬で歪む。
すると少女は口を開いた。
その言葉は、
痛みを訴えるものでもなく、
そして、お礼の言葉でもなかった。
「あ、あのっ!
野球をやっていらっしゃいますか!?」
「え!?」
驚いた。
いや、驚かされた。
もう呆れたくなるくらいに。
「…なんで?俺のこと知ってる?」
「え?あ、いえ。
さっきの送球が凄い練習したような癖のある投手の動きに見えたものですから…。
あ、違ったらすみません…。」
はぁ…凄いなぁ…。
もはや呆れそう…。
「あ…謝らなくてもいいよ。
だって、当たってるし。
まあ、今はやってないけどね。」
「…それも分かります。
足…ですよね?左の…。」
「…なんでそこまで…」
「わたしも投手です。
どんな怪我をしたら
どこが駄目になるかは
百も承知ですから。」
「ふーん…。」
凄い子だな…本当に。
さらに少女は言葉を続けた。
「…あの、まだ…野球…好きですか?」
突然の言葉のようにも思えたが、
その言葉が来ることが
心のどこかで分かっていたようで
自然に言葉が口から出てしまっていた。
「…ああ、もちろん。」
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